寅さんの商い(啖呵売)



「七色唐辛子」売り

口 上

     唐辛子の名店というのは日本全国どこへ行ってもございます。   皆様方がよぉくご存知なのは、京都は東山・三年坂を下って参りますと   角に「七味屋さん」というのがね、古い京都を物語るように山椒の粉   が勝ってひとつ、たいへんすばらしい出来上がり。これが京都名物の   唐辛子。      それに対抗するのが、長野県は善光寺門前にございます、八幡屋磯五郎   さん。ここの唐辛子は善光寺詣での手形とも言われております。寒い   土地柄だけに生姜の粉が入っているのが、これが特徴です。      それに対抗するのが、江戸・薬研堀の七色唐辛子。江戸の薬研堀七色   唐辛子というのは、焼いた唐辛子が入っているのが特徴でこざいます。   みなさんはご存知ないけれども、七つの色を合わせていきます。      これ全部漢方薬ですよ、漢方薬。ね、胡麻というのは、たいへん身体に   いい。植物のバターと言われるほど栄養価の高いもの。みかんの皮。   これ、江戸時代は風邪薬ね。ああ、いい香りはするしね、ビタミンC   がいっぱいだ。      で、これ、唐辛子、唐辛子というのはカプサイシンが   いっぱいで血の流れをよくしてくれる。山椒の粉、脳の活性にいい。   内臓にたいへんよろしいものでございます。全部身体にいいものばかり。      これは、あんパンの上にちょろちょろとかけるやつ。ケシの実ね。   これは細かいけれど、これはね、めまい、動悸、息切れを   とってくれるという、全部漢方薬。      じゃ、どうやって合わせるかというと、   先ず最初にいれますのは、武州川越の名産・黒胡麻が入ります、   続いて入れますのは、紀州は有田のミカンの皮、これを一名陳皮と   申します。      続いて入れますのは、江戸は内藤新宿八つ房が焼き唐辛子。   続いて入れますのは、東海道静岡は朝倉名産粉山椒、   四国高松の名産は唐辛子の粉、大辛中辛を決めて参ります。   大和の国のケシの実が入ります。      最後に野州日光、麻の実が入りまして七色唐辛子。   大辛に中辛、家伝の手法。お好みに応じて調合いたします。   はいどうぞ!          〜この項 宮田章司著 江戸売り声百景 岩波書店より〜 これが唐辛子の口上ですが、これ全部を聞いたことはありません。 最後の 「まず最初にいれますのは----------」当たりは、聞き覚えが あります。  七色唐辛子についての、更に詳しい資料を見つけたので、次に記して おこう。 七味唐辛子とも云う。広辞苑によると七色唐辛子とある。 蓄椒(とうがらし) ・胡麻・陳皮(ちんぴ)・罌粟(けし)・菜種・麻の実・山椒・を砕いて混ぜ たもの。香辛料とする。七色の中を紫蘇の実・青のり等で入替える場合もある ようだ。
以下、七色唐辛子の食・薬効果について調べてみよう。

@ とうがらし(唐辛・唐辛子・蕃椒)・・・なす科の一年生草木。熱帯の
原産で桃山時代から栽培。品種が多い。

夏の頃、白い花をつけ果実は未熟の時            
は濃緑色、熟するに従い赤くなり、果皮及び種子に刺激性の辛味を有し乾燥して           
香辛料とする。

英語でCHILIといい、南米都市『チリ』と同じスペルである。
この地に沢山とうがらしが取れたのであろう。

"唐"ということからカラもので           
遣唐使かその後の到来物として持ち込まれたものであろうか。

Aごま(胡麻)・・・ごま科の一年生草木。茎は四稜。葉液に一個の白花を開く。         
花後、凾結び熟すれば黒くなり縦に四裂する中に多数の種子。

白色・黒色・茶色の三種あって油を含む。食用し油も絞る。
ごま油は独得の香気がある。薬効・痰除け・鎮咳・発汗・健胃薬としての効果あり。

Bちんぴ(陳皮)・・・橘皮(きつぴ)ともいう。
密柑の皮を乾かして薬用に供する。

密柑は昔から水菓子の代表的なもので、古代(約2000年前)垂仁天皇の勅を           
奉じて田道間守(たじまもり)は常与国へ赴き橘を得て、帰ると天皇は既に崩じて          
景行天皇(第12代)の御世となっていて歎き悲しみ、遂に殉死する。

以後、田道間守と香果(密柑)をもたらしたことにより菓祖となし、
菓祖神社(大宰府天満宮の隣)に祀られている。橘は古代から薬香果であった。
 薬効・・・ビタミンCを多量に含み 壊血病の予防等。

Cけし(芥子・罌栗)の実・・・けし科の越年生草木。白・紅・紫の花を開き刮ハ          
は球形。未熟の果液から阿片を製するので栽培は禁止されている。
 薬効・・・モルヒネの原料

Dなたね(菜種)・・・アブラナの種子。搾った油は食用、灯用、工業用に使う。          
春真盛りの頃黄色い花畑は見事である。

Eあさのみ(麻の実)・・・雌麻(めあさ・・・雌花をもつ麻)の実。色は黒く          
形は円い。かみつぶせば芳香がある。

薬用、食用とする。くわ科の一年生栽培草木。茎皮は繊維となり麻布を作る。            
インド産のものは麻酔性物質を含み麻薬をつくる。
  
Fさんしょ(山椒)・・・ヘンルーダ科の落葉權木。葉は羽状複葉で対生し、           
雌雄異株。

乾果は秋熟する。実と葉は香気と辛味が強く、若葉の「きのめ」             
として賞し、果実は香味料として使う。
さんしょの木の擢木は貴重品。
 薬効・・・回虫駆除剤 


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